2020年5月– date –
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【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第12話
ダガラ城の皇極殿では、官吏たちが集まって大変な騒ぎとなっていた。陛下が矢で射たれたと、宰相から書簡が届いたのである。さらに数日後、また宰相からの知らせが入った。第一報には「それは何たることだ」と驚いたふりをしてみせたエフタルだったが、... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第11話
ハウエルは、執務室で頭を抱えていた。大事な妹をカデュラス国王にさし出して、なんとか自分の身は守れた。しかし、ラシュリルを取り戻すためには、徹底的な調べを受ける覚悟をしなければならない。そうすると、やはりエフタルとのつながりを知られてし... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第10話
丸鏡に、赤い紅をさした女人が映っている。高く結い上げた黒髪に挿された、花型をあしらったかんざし。それは、華栄殿の軒を支える斗栱のように色鮮やかだ。 じっと食い入るように鏡の中を覗く。不安に満ちた顔が情けない。王妃の衣をまとっていても、... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第09話
嫌だ、まぶたが腫れてる。 とりあえず着替えだけを済ませて、ラシュリルはドレッサーのイスに座った。顔の状態を見て、化粧は諦める。今日も離宮へ行ってみようかしら。でも、勝手なことをしてご迷惑になるといけないし……。 独り言を言いながら、腰... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第08話
東の空に欠けた月がのぼる。昼勤めと宿直の女官が交代する時刻は、王宮が手薄になる絶好の機会だ。タナシアは、カイエと二人で華栄殿を出た。目立たない暗色の袿を着て、手燭の明かりを頼りに清殿へ繋がる廊下を渡る。 「誰も近づけないでくださいね」 ... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第07話
その日、エフタルはいつものように屋敷を出てダガラ城を目指した。途中、輿の御簾を扇の柄にひっかけて街並みを覗くと、朝焼けがカナヤの街並みを鮮明な曙色に染めていた。憂いのため息を一つ吐き出して、扇を胸元にしまう。 目を閉じれば、嫌でもまぶ... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第06話
「それでは、ラシュリル様。離宮の暖炉に火を入れてきます」 「ええ。頼んだわ、ナヤタ」 「じっとしていてくださいね」 「分かっているわよ」 ナヤタが、そわそわと落ち着かないラシュリルを冷やかして、笑いながら部屋を出ていく。部扉が閉まると同時... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第05話
「そんな大役……。わたし、不安だわ。大丈夫かしら」 「君の笑顔は、場をなごませてくれるからね。だからぜひ、君に陛下の案内役を務めてほしい」 胸がどくんと大きくはねる。不安だという言葉は本心だった。ラシュリルは、いつものようにほほえんで必死...
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