2020年6月– date –
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【書籍原作】雨上がりにさす光
◆後日談
ある日の夕暮れのこと。 アユルは、残暑をやわらげるような淡色の衣を着た愛娘を抱いて、王宮の奥にある池の畔まで歩いた。 セシルは、この夏ふたつになった。じっとしているのは食事と睡眠の時だけで、一日中あちらへこちらへ好奇心の赴くまま快活... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆最終話
「それよりも、こちらがよろしいですわ」 「あら、そうかしら。貴妃様には派手すぎるのでは?」 『これ』 「さすが宰相様の姫君ですわ、カリン様。やはり貴妃様は、薄桃色がお似合いになられますものね」 湯殿で身を清めてアユルが奥室に行くと、部屋一... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第21話
カリナフは、ラディエにエフタルとタナシアについて報告して牢へ向かった。地下牢にいるエフタルは、時々気が狂ったかのように大声で叫ぶようになった。かと思えば、牢の隅で縮こまってぶつぶつと壁に向かってなにか喋っている。身分も財も奪われて、つ... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第20話
ラシュリルが清殿に居を移してからというもの、アユルは書斎で仕事をする時以外、奥の部屋で過ごすようになった。奥の部屋とは、アユルがラシュリルに与えた三室のことだ。 これでは貴妃様の気が休まる時がないのでは。そう案じたコルダが、それとなく... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第19話
仄暗くて黴臭い牢獄を照らす松明の下で、カリナフはエフタルを見おろした。両手両足を粗末なイスに縛りつけられたエフタルの見るも無惨な姿に、カリナフの目が細くなる。 「おのれ……」 「口の利き方にご注意なされませ、エフタル様。あなたは身分を失っ... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第18話
サリタカル国王から、キリスヤーナ国王がサリタカルの王都に到着したとの知らせが届いた。 皇極殿では、キリスヤーナ国王の処遇について議論がなされていた。襲撃の件といい、使節の件といい、キリスヤーナ国王は命をもって償うべきである。いいや、そ... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第17話
先王マハールの御代、王宮には王妃と他に十八人の妃がいて、おびただしい数の女官が暮らしていた。王宮の記録を見ると、歴代の王の中には三十余名の妃を持った者もいる。 ダガラ城の奥に造られた王宮という豪奢で広大な檻の中で、崇高な神の血筋は守ら... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第16話
冬の凍てつくような寒さがやわらぎ始めるころ、カデュラスの王宮では歓春の宴を催すのが古くからの習わしだ。それは、命が芽吹く春の訪れを祝うもので、取り仕切るのは王妃と決まっている。 マハールの御代では、王妃シャロアの権勢を誇示するかのよう... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第15話
晴天の空に灰色の雲が広がり始め、それから程なくして大きな雨粒がぽつりぽつりと落ちてきた。雨は、すぐに本降りになった。 「宰相様、その鳥かごはなんです?」 コルダは、外廷と王宮を繋ぐ廊下の途中で足を止めた。腰をかがめて、ラディエが持つ大... -
【書籍原作】雨上がりにさす光
◆第14話
カデュラス国宰相、ラディエ・ノウス・カダラル宅の朝は早い。 庭で放し飼いにされている雄鶏が、親切に「こけこっこー」と大音量で夜明けを知らせてくれる。ラシュリルは、ぼんやりと目を開けてまた閉じた。部屋の中が真っ暗だから、まだ夜なのだと思...
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