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「……ふ、あっ」
とても乳房とは呼べない小ぶりな房を指先でやわやわと揉まれて、沙那は小さな悲鳴をあげて体をぴくりと震わす。しかしその悲鳴は、口の中で絡まる舌に潰されて、またたく間に甘い唾液に溶けてしまった。
不安と怖さ、それに嬉しさとか恥ずかしさとか、様々な思いが心の中でせめぎ合って入り混じる。けれど、舌の感触と胸に触れる指先のぬくもりが、とても気持ちいい。
「っ、はぁ……」
唇が離れた隙に大きく息継ぎする。しかし、すぐ食らいつくようにまた口を塞がれた。くらくらと眩暈を覚えて、体から力が抜けていく。すると、八条宮の手が今度はみぞおちや腰の辺りなで始めた。
――なんだか、体が変。
初夜のときのような感じではなくて、体の奥深くが、うずくようにじんわりと熱い。
――どうしちゃったの、わたし。
脚の間がもぞもぞするのを感じて、沙那は太腿をきつく閉じる。すると、ちゅっと小さな音を立てて唇が離れた。息苦しさから解放されて、懸命に息を吸って吐いてを繰り返す。沙那の呼吸が落ち着くと、軽く下唇をついばまれた。
「ん……、はあっ」
「ねぇ、沙那。目隠しの具合はどう?」
「えっと……、具合はいいですよ。恥ずかしさがだいぶ軽減されているような気がします」
「そう。それはなによりだね」
「でも」
「なに?」
「見えないから、依言様がどこをご覧になっているのか分からなくて、変にどきどきするといいますか」
「へぇ……。気のせいでは?」
「そうでしょうか」
八条宮は、沙那を褥に横たえて白い肢体をながめた。目隠しをせがまれたときは驚いたが、これは沙那にとっていい方法なのではないか思う。しかし、目に腰紐を巻いて、片手で胸元を、もう片方で閉じた太腿の間を隠す姿は危ない。沙那はよくても、こちらの理性が揺さぶられる。
「……依言様?」
沙那が、八条宮の気配を探すように顔を左右に振る。八条宮が急いで単衣を脱ぐと、理性が揺さぶられた証拠に、身に着けていた沙那特製の「愛妻家ふんどし」がこんもりと盛りあがっていた。
――まいったな。
八条宮は、自分の頬を人さし指の先でぽりぽりとかく。
沙那の身持ちの固さは、婚礼前に実証済みだ。あれは、別に沙那を試したわけでなく成り行きで……、いや、今はそのようなことはどうでもいい。
とにかく沙那が清い身であるのは明らかで、実のところ乙女の相手をするのは初めてだから少し扱いに戸惑う。八条宮はしばらく思案して、意を決したように下穿きの紐を引いた。律儀に下穿きをたたんで、褥の脇にそっと置く。
「どうかなさったのですか?」
「ああ、すまない。下穿きの刺繍があまりにも見事だから見惚れていた」
「もしかして、早速使ってくださっているのですか?」
うん、と返事をしながら沙那の体に自分の体を重ねる。髪をなで、頬をなで、軽いくちづけを落としてから首筋に舌を這わせる。緊張しているのか、汗ばんで湿った沙那の肌は想像以上に甘美だった。肌を味わいながら、次は鎖骨を舐める。
沙那の体は、溌剌とした性格からは想像できないくらい細くて、力任せに押さえつければ壊れてしまいそうだ。
「……あ、のっ!」
沙那の両手が、行為を制止するように八条宮の肩を押す。八条宮は、沙那の手首をつかんで敷布の上に縫いとめた。膝で沙那の両脚を割って、体をその間に滑り込ませる。
「怖くなった?」
「いいえ、そっ、そうではなくて。少しだけ待ってくださいませんか? やっぱり、恥ずかしくて……、ふ、あッ!」
万歳をした格好で腕を拘束されたまま、左胸の先を生温いものがぬるりとかすめた。さっき、首と鎖骨に感じたのと似ている感触だ。
それは固くなったり柔らかくなったり器用に形状を変えながら、胸の先端をつついて、その周りを這うように移動する。そして時折、さわさわとなにかが胸元の肌をくすぐった。
はぁ、と熱い吐息が胸にかかって、沙那は八条宮がそこを舐めて、髪が肌に当たっているのだと理解する。八条宮がどんな顔でそんなことをしているのか。考えるだけで、沙那の正気はどこかへ飛んでいってしまいそうになる。
左胸の次は、右胸も同じように舐め回された。恥ずかしくてたまらないのに、なにもかもが気持ちよくて、もっとしてほしくなる。
「……は、……んんっ」
乳首を強く吸われて、沙那は体をしならせた。下腹部がきゅっとしまる感じがして、体の奥がじんじんとさらに熱くなっていく。
胸をもてあそばれながら、手の拘束が解かれて太腿をなでられた。自分からお願いしたとはいえ、目を塞がれて体をまさぐられる感覚は神出鬼没で、思わず「ひっ」とおびえたような声が出てしまう。
「怖がらなくてもいいよ。あなたを傷つけるようなことはしないから」
八条宮が優しく沙那に声をかけて、ぷっくりと膨れた胸の頂を口に含む。口の中でつんつんつつかれたり、ちゅうっと吸われたり、ちろちろと舐められたりして、頭がおかしくなってしまいそうなくらいの快感にたえていると、太腿をなでていた手に下生えの奥を触られた。
「ひ、あぁ……っ」
からからに乾いた喉から、おかしな悲鳴が飛び出す。肌が敏感に八条宮の動きを察知して、その度に恥ずかしい声ばかりが口から出て来る。胸を咥えられたまま、秘裂を開かれて中を何度も擦られると、全身を快楽に支配されて背中が弓なりに反った。
「ぅ……、あ、んんっ」
沙那は、敷布を逆手につかんで声を押し殺す。熱のこもった吐息とさらさらとした銀髪が肌に触れるだけでも意識が遠くへ行ってしまいそうになる。それに陰核を指で押し潰される痛感まで加わって、体がびくびくと大きく震えた。
「い、や……っ」
沙那の抵抗を無視して、八条宮が指先で円を描くように陰核を刺激する。だんだんと痛みがやわらいで、下腹部のうずきと共に一点に熱が集まっていく。秘所が濡れているような感じがして脚を閉じようとすると、八条宮の体がそれを阻んだ。
胸の尖りを甘く噛まれて、蜜口をいじられる。八条宮の指が動く度に、くちゅくちゅといやらしい音がして沙那の羞恥心をあおった。
「ふぁ……、ああっ!」
沙那が軽く気をやる。八条宮は、体を起こして沙那の蜜口に中指の先を挿れた。濡れそぼった入口を丁寧に擦りあげて、ゆっくり指のつけ根まで沈める。指一本でもきついナカで指の角度を変えて肉襞をさすると、沙那が眉根を寄せて身をよじった。
「はぅ……、んんっ……」
ぐりぐりと体の中をかき回されているうちに、なにをされているのか分からなくなる。ただ気持ちがよくて、細切れの息をしながら遠のいていく意識を保つのが精一杯。だんだんと指の動きと卑猥な水音が激しくなって、沙那の頭の中は真っ白になった。
「……沙那」
切なげな声が聞こえて、意識が引き戻される。まだ頭の中がふわふわと夢見心地で体に力が入らない。自分の呼吸も遠くで聞こえる気がする。
「大丈夫?」
小さく頷くと、ふやけた蜜口に指とは違うものが当てられた。熱くて、固くて、その重量にごくりと喉が上下する。それは割れ目を押し広げるように往復して、ぬちゅっと粘性の音をわざとらしく響かせた。
「少しだけ、我慢して」
なにを、と沙那が考える隙もなく八条宮が猛々しい楔を突き立てる。
「ぬっ、くぅ……っ」
唇を嚙みしめて、沙那は実に色気のない猛者のごとし声を漏らした。色気にまで気を回す余裕はない。呼吸すら上手くできなくて、陰孔をぐぐっと押し広げられる鈍い痛みに耐える。八条宮が少し動いたので、沙那は「あぅ」とかすれた悲鳴をあげた。
コトの進み具合といえば、まだ鈴口が秘苑に埋まった程度である。できるだけ痛みを感じさせないようにとは思う。しかし、甘露でぬかるんだ隘路にぎゅうっとしめつけられたら、本能を解放してしまいたくなるのが男の性。
八条宮はなんとか理性を保って、沙那の目を覆っている腰紐を解いた。ところが、沙那は目を開けようとしない。
「つらかったら、俺にしがみついてもいいよ」
「……は、はい」
沙那の返事を聞いて八条宮がふっと気を抜いたそのとき、首に細い腕が、腰になにかが巻きついて強い力でぐぐっと体を沙那の方へ引き寄せられた。
「あ?!」
「ひ、ぐっ!」
咄嗟に両手をついて、沙那を押し潰すのだけはどうにか回避できた。しかし、不可抗力的に腰が落ちて、ずにゅっと一気に奥まで貫いてしまった。破瓜の痛みはつらいと聞くから我慢していたのに、これではなにもかもが水の泡だ。
「く……ぁ、いた……、いっ」
「す、すまない」
八条宮が手探りで腰に巻きついているものを確かめると、沙那の両脚がすごい力で絡まっていた。
「沙那……っ、この足は、なに? なぜ俺の腰を?」
「しっ、しがみついてもいいとおっしゃったので、必死にしがみついておりますッ!」
沙那は、息を詰まらせながら答える。だって、つらいのだもの。「あの場所の違和感」どころの騒ぎじゃないのだもの。お腹の中が、奥が、あそこが痛くて熱くて……。息もちゃんとできないし、なにかにつかまっていないとおかしくなってしまいそうなのだもの!
沙那を苦しめているのは八条宮の陽物なのだが、それどころではない沙那にとって八条宮は助け舟。現在、救いを求めて頼れる唯一の存在なのだ。沙那はさらにぎゅっと手と脚に力を入れた。
「ねぇ、沙那」
名前を呼ばれて、おそるおそる目を開ける。すると、涙でゆがんだ視界に琥珀色のきらめきが二つ飛び込んで来た。眉間を銀の髪にくすぐられて、沙那はとても近い距離に八条宮の顔があるのだと気づく。
「痛い?」
「……はい。でも、なんとかなりそうです」
「そう、それならよかった。あなたがなにをしても驚かない自信があったのに、俺もまだまだだな」
「ひ、ぇ……? わ、わたし、なにか粗相をいたしましたか?」
「してないよ」
笑みを浮かべて、八条宮が沙那の唇をついばむ。接点を変えて何度も、その柔らかさとか弾力を堪能するように。
「これでやっと依言様の妻になれましたね、わたし」
沙那は、目尻にこぼれた生理的な涙を指で拭ってにっこりと笑う。沙那は、すっかり妻の務めを果たした達成感にひたっていた。しかし、八条宮の言葉が達成感を取りあげる。
「いや、これからだよ」
「これから?」
「うん。だから、少し脚の力を抜いてくれないか」
沙那の唇をついばみながら、八条宮が動き始めた。ずんと奥を突きあげられて、沙那の手足がさらに強く八条宮にしがみつく。
「……ふぁっ……あぁ、ん、だめ、動かないで……っんあっ……」
力を抜けといわれても、体の奥を突かれる感覚は初めてで、どうやって耐えたらいいの。ふと、吐息にまぎれて優しい声が聞こえた。名前を呼ばれたのだと思う。
――大好き。
そう言いたいのに、口から出るのは恥ずかしい喘ぎばかり。痛くて、気持ちよくて、嬉しくて……。もうなにも考えたくない。体を揺さぶられる度に、意識がもやの中へ散っていく。
やがて沙那は、体をびくんと大きくしならせたあと、八条宮にしがみついたまま意識を手放した。意識は手放しても八条宮を手放さないあたり、さすが沙那である。
