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story 02




 浴室にあったシャンプーの香り。おおらかで柔和な先生のイメージにぴったりの匂いだと思う。スイッチが入ったって、先生は優しい。もっと乱暴でもいいのにと思うほどに。


 ――他の人にもこうなのかな。


 ふとそんなことを考えて、慌てて肌の感覚に意識を集中する。
 仁寿が、胸の柔肌に軽く歯を立てた。舌を這わせて、つんと尖った乳首を口にふくんで、吸って、舌先で転がすように弄ぶ。


「い、や……っ」


 抵抗は言葉先だけで、体はもっともっとって強請ねだってる。もっと敏感で恥ずかしいところを、早く触ってほしいって疼いてる。こんなのおかしいってわかっているのに、理性を保てない。
 仁寿が体を起こす。熱い視線を感じて、彩は胸を大きく上下させながら太腿ふとももをぎゅっと閉じた。

 つるりとした無毛のそこを見て、ほとんどの男が目を細めて蔑むように言うの。いやらしいね。そんなにセックスが好きなのかって。
 ほら、先生も驚いてる。嫌いになんかなれないって言ったけれど、きっと他の男と同じことを思ってるのよ。

 男の「好き」を信じると痛い目をみる。信じて好きになった分だけ、ちょっとした言葉に傷ついて弱くなって……。だから、恋愛はしたくない。セックスがもたらすのは、深い眠りだけ――。


「先生、あの。そこをじっと見つめられると、とっても恥ずかしいんですけど……」
「あ、ごめん。見とれてた」
「見とれてた?」


 頭をかいて、へへっと照れたように仁寿が笑った。
 予想外の反応に気が抜けて、思わず体の力まで抜けてしまう。その隙に仁寿が両脚の間に陣取って、恥ずかしいところに顔をうずめた。


「彩さんのここ、すごくきれいだね」
「……だ、めっ、そこ……っ、やっ……」


 むきだしのクリトリスをそっと舐めあげられて、彩は苦悶しながら足の指でシーツをつかむ。背筋を走るぞくっとした小さな波。必死で我慢するけれど、声をおさえられない。息がかかるだけで、全身に鳥肌が立ってしまう。

 仁寿が彩の反応をたのしむように、舌先でクリトリスを転がしてライトキスをする。わざと音を立てて、ぷっくりと赤く熟れて敏感になったそこに薄い唇が吸いついた。


「……っふ、んんっ!」


 仁寿は口の中で彩のクリトリスをひとしきり愛撫して、秘裂を舐めた。体温より少し高い熱に敏感な場所を犯されて、彩の整ったふたつの眉が寄って赤い唇から悶えるような熱い息がもれる。
 自分でもわかる。もう、ぐっしょりと濡れているのが。こんな姿をさらして、職場でどんな顔をすればいいの?


「彩さん、かわいい。すごくかわいい」


 仁寿が、彩に覆いかぶさってキスをする。
 混ざり合うふたりの唾液に溶けた蜜の味。卑猥ひわいな香りに、思考がくらくら揺れる。キスは深くなって、その合間に指が恥部をこねるように触れてゆっくりと中に入ってきた。


「……っふ……っ」


 息を奪い合うような荒々しいキス。でも、それは乱雑さなんて少しもなくて、ただただ熱い。中では、指がある場所を探っている。一番気持ちがいい場所を――。
 彩は腰を小さくひねった。仁寿が、唇を離して「ここ?」と色っぽい声で言う。


「……そこ」


 目を潤ませて小さく答えると、ざらざらとしたところを指の腹で強く小刻みにこすられた。途端に、しびれるような快感が一気に頭を突き抜ける。気持ちよさに溺れてしまいそう。でも、声は出しちゃだめ。
 彩は、縛られた手で口をふさいで必死に声を殺した。

 指が膣壁を押し上げるようにこする。もうだめ、いっちゃう。膣口から大量の愛液が飛び散るようにあふれるのと同時に、体がしなって、意識が一瞬のうちに浮遊する。
 仁寿が指を引き抜いて、彩を拘束するネクタイを解いた。


「挿れてもいい?」


 耳元で、ぞくっとするような低い声がささやく。
 彩は、自由になった手を仁寿の腕に這わせて頷いた。中から湧き出る潤滑液を絡めるように、硬い雄茎が秘裂を割る。それだけで、もう一度とんでしまいそうなくらい気持ちがいい。

 仁寿は先端をずぷりとねじこませて、ぐいっと一気に奥まで貫いた。彩が、口元から甘い息をはく。その顔がなまめかしくて、あまりにもきれいで、一瞬、呼吸するのを忘れてしまった。
 きつくまとわりついてくるあたたかな肉襞にくひだ。大好きな人に包まれて、幸せで胸がいっぱいになる。彼女も同じ気持ちだったら最高に嬉しいのに。


「大好きだよ、彩さん」


 くちゅっと粘性の音を立てながら、とろけた膣の中をかき回される。浅くじらされ、深いところを激しく突き上げられ、その度に、彩はぎゅっと中の仁寿を締めつけて体を震わせた。仁寿が果てたのは、彩が何度目かもわからない絶頂を迎えたあとだった。

 彩は、朦朧とした意識で間接照明に照らされた天井に視線を漂わせる。魂が離脱してしまったんじゃないかと思うくらい体が重たい。


「ねぇ、彩さんはセックスが好きなの?」


 仁寿は、彩の頭を腕にのせて尋ねた。顎のラインできれいに揃った彩の真っ黒な髪をなでて、汗ばんだ体が冷えないように布団を被る。

 なんというか、そういうタイプの女性には見えない。普段の彼女は隙がなくて、クールで、淡々と医局秘書というストレスしかなさそうな仕事をスマートにこなしている。

 彩さんの誠実な人柄と真面目な仕事ぶりに対する周りの評価は高い。研修医まで入れると40名を越える医者を相手に、日々上手く立ち回るのは骨が折れる作業の連続だと察する。きっと、見えない所でたゆみない努力をしているのだろう。そんなこと、彼女はおくびにも出さないけど。

 それは部署の垣根を越えて、僕なんか戦々恐々としてしまうあの厳しい看護師長でさえ、彼女には一目と信頼を置いていて、いろいろと頼りにしている様子だ。

 彩さんは、クールだけど人当たりは柔らかくて、他人の話には上手につき合うけど自身のことはあまり話さない。いわゆる、聞き上手だ。だから、彼女のプライベートは謎に包まれていて、それが魅力的だったり歯がゆかったりする。

 もっと彼女のことを知りたい。他の男になんか触ってほしくない。セックスの相手を探すって何だよ。どうして、行きずりの男が彩さんとセックスするんだよ。6年も片思いしてる僕を差し置いて!


「嫌い、ではないと思うんですけど、好きということもなくて……。薬みたいなものなんです」
「どういうこと?」
「不眠に悩んでまして。セックスすると眠れるから、その……」
「薬じゃだめなの?」
「ちゃんと受診して、カウンセリングも受けたしいくつか薬も試しました。けど、全然だめでした」
「慢性的な不眠なの?」
「いえ。年に数回だけ、定期的になるんです。おとといから眠れなくなって、それで」
「そっか。薬が効かないのはつらいね」


 彩が、驚いた顔を仁寿に向ける。仁寿は腕の中を見つめて、彩の頭をぽんぽんと優しく叩いた。


「普通に仕事しながら、もう72時間近くまともに寝られてないって事でしょ? そんなの、想像するだけで気が狂っちゃうよ。打つ手がセックスしかないのなら、僕だってそうする」

「わたしのこと、軽蔑しないんですか?」
「言ったでしょ、僕の気持ちは少しも変わらないって。それにさ、僕も未経験の清らかな身じゃないし、彩さんのこととやかく言えないよ」

「そういう問題じゃないと思いますけど」
「そういう問題でいいんだよ。けど、体は大事にしなきゃ。それに、僕がやきもちをやいちゃうから、もう他の人とはしちゃだめだよ」

「……は、はい。……え?」
「あとは、敬語と先生って呼ぶのをやめてほしいな。仕事中はしょうがないから我慢するけど、病院を出たら彩さんの彼氏でいたいもん」


 仁寿が、ぎゅっと彩を抱き寄せる。彩は、仁寿の腕の中で体を小さく丸めた。不眠に悩み始めてから、セックスのあとに相手とそのまま寝るなんて初めてだ。
 先生のペースにまんまと乗ってしまってる感じは否めないけれど、とても眠たくて何も考えられない。それに、何だかすごく安心する。他人の体温ってこんなに心地よかったっけ。


「眠れない?」
「……いいえ」
「そう、良かった。彩さん、今週もストレスフルな1週間だったね。明日は日曜日だから、なにも考えずにゆっくり寝るといいよ」
「……ありがとう、ございます」
「おやすみ、彩さん」


 穏やかな声が、耳からすっと体にしみ込んでいく。先生はどうしてこんなに優しいの?
 目の奥がじんわりと熱を帯びる。彩は微睡んで、そのまますうっと深い眠りに落ちていった。


   
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